K君

11月7日(日)


唐突ですが、ちょいと趣向を変えて。たまにはね。先日思いつきで書いていた文章をのっけてみます。



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エッセイっぽい文章の時には、「ですます調」ではなく「である調」のほうがよい。読みやすいし、書きやすい。リズムがよくなる。これからは、気分のおもむくままに、使い分けていこうと思っている。



というわけで、エッセイをひとつ。




つくづく思う。便利な世の中だ。「便利さ=幸せ」という価値観が世の中に席巻して久しい。本質的には便利さと幸福感は比例するものではないと僕は思っているのだが、便利なものは便利だ。それによって喜びを感じることも多い。何事もほどほどが一番だが、これもまた然り。

僕にとっての便利さの象徴はネットである。アマゾンでほとんどの商品が送料無料になって以来、ちょっとした買い物もクリックひとつで済ませてしまうことが多くなった。その便利さを支えてくれている労働に対する敬意や感謝を覚えることもないままに、どっぷりとその便利さに浸っている。困ったものだ。


慌しい百姓ライフではあるが、基本的にはひとりで動いている我が身。マイペースな暮らしである。性分から、常に何かをしていないと気がすまない。そこで困ったことがひとつできる。ご飯を食べるときに、手持ち無沙汰なのだ。テレビは見ない。「そうだ、だったら映画でも見るか」とある日思いついた。

ネットでCDやDVDを予約しておくと郵便で届けてくれるというサービスがツタヤにある。月に4枚ないし8枚の定額料金。一度に2枚送られてくる。返却期限はなく、見終わったらポストに入れるだけ。作品の幅もとても広い。そしてまたネット社会の便利さについつい頼ることになる。まあ、このくらいよしとしよう。そして作品は細切れに見ることになるが、仕方ないだろう。NHKの朝のドラマ感覚だ。ちりもつもればなんとやら。かなりの量の映画をここ1年ほどで見た。

映画ではないが、TVドラマ「北の国から」も、見てみた。1981年にテレビで放映されたドラマだ。本編は全24話。放送終了後も数年に一度はスポットものの続編が作られ、2002年に完結した。今さら説明の必要がない作品である。スポットものはある程度目にしていてそれなりのファンだったのだが、本編をちゃんと見たのは初めてのことだった。さすが、名作の誉れが高いドラマであった。何度も何度も泣いてしまった。


ドラマの最終話が近くなったとき、ある人のことをふと思い出した。彼の名は、K君。大学のインドネシア語のクラスで一緒だった間柄だ。それほど親しくしたという記憶もない。時折言葉を交わす程度の仲だった。見た目は、サッカー日本代表の長谷部に似ていた。なかなかの男前だ。たった一度だけ、黄昏時の図書館で話し込んだことがあった。就職活動が始まる時期だった。彼は図書館で公務員試験の勉強をしていた。「刑事になろうと思ってね」とはにかむK君を見て、僕は思わず彼の話を聞いてみたくなったのだ。その時の印象深い話が、まだ僕の頭の中に残っていたということだ。なんだか、嬉しかった。

彼は確か5歳ほど年上だった。ずいぶん回り道をして大学に入ったのだ。うろ覚えな話ではあるのだが、彼が口にしたのは概ねこんな内容だった。彼は、甲子園を目指す高校球児だった。そして、浪人生となった。予備校に籍は置いたものの、目の前の受験勉強にやる気を感じず、図書館にこもって好きな本を読み漁る毎日だった。

ある日かれは思いつき、北海道に行った。富良野塾に入るためだ。富良野塾とは、「北の国から」を生み出した倉本聡さんが主催する演劇人養成のための私塾だ。厳しい自然の中で自給的な共同生活を送ることで、本物の戯曲や力強い演技を生み出す胆力を育てる場であったという。

倉本さんは彼にこういったそうだ。「まだ若い。いろいろ経験してからのほうがよい。」そこで彼は、次の一歩を踏み出す。働いてお金を貯めて、旅に出た。いわゆるバックパッカーとなる。1年か2年ほど海外を歩いた。そして、インスピレーションは、寄寓にも旅先で降ってきた。

「野球がしたい、って思ったんだよ。面白いでしょ。」シンガポールかどこかに居た時に、思いついたのだそうだ。時代が時代なだけに、メールや動画を旅先で見るということもないだろう。肝心な部分を覚えていない自分が歯がゆいのだが、高校の先輩が大学野球で活躍している話を聞いたとか、そんなことだったと思う。

彼は奮起して、受験勉強をし直した。憧れの、大学の名門野球部に入部する。年下の先輩や同級生とともに、汗を流し続けた。いつも静かな笑みを浮かべる彼の姿は、年齢相応の落ち着きと、人間の大きさを感じさせたものだ。話を終える頃にはすっかり日が落ちていた。


、K君はどうしているだろうか。僕にとっての大学時代は、自分自身の性格とまだ上手に付き合うことができず煩悶していた時期だ。将来どういう方向に進み、自分の居場所を作っていくか全く見えずに闇の中を手探りで歩んでいたような気がする。だから、学生時代から続く人間関係も決して多くない。そういった感じなので、K君のその後も、知らない。だが確かに覚えている。あの時、話を聞いた後にアパートに向かう坂道。いつもより自転車のペダルが軽く感じたことを。

「北の国から」を見ていて、自分の記憶がK君にたどり着くとはまったく予想していなかった。K君が刑事になったのかどうかは定かではない。でもこれだけは言えると思う。K君が出してくれるカツ丼は、きっと上手い。ほろりとくるだろう。そして、刑事になっていなくても、どんな職場でも、そして家庭の中でも、はにかんだ微笑を見せてくれているだろう。ほとんど彼のことを知らない僕ではあるが、そのように感じてしまう。

返送用の封筒に見終わったDVDを入れて、ポストに向かう。ふと思った。誰かが、他の誰かにとってのK君のような存在になれたらステキだなあ。そして自分もできることならそうありたいものだなあ。

ポストにDVDを入れた。トン、と小さな音が鳴った。風がひんやりとここちよかった。遠くから犬の声が聞こえてきた。

そして、空を見上げると、星が、瞬いていた。

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2010年11月07日 ひとりごと トラックバック:0 コメント:0

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